【数学】コッホ雪片-無限の長さと有限の面積-
以前、積分法で曲線の長さを求める方法を扱ったbeeft.hatenablog.com
しかし、ここで個人的な疑問が一つ生じた。ワイエルシュトラス関数のように、対象とする関数が微分不可能な点を含んでいる場合はどうなるのだろう? (ワイエルシュトラス関数をご存じない方はこちらをどうぞ→ワイエルシュトラス関数 - Wikipedia)
その疑問に対する解を得るのはかなり難解そうなので手を付けていないのだが、先に挙げたワイエルシュトラス関数はフラクタルの一つだ。ここでは著名なフラクタルの一つであるコッホ曲線を取り上げる。タイトルにもあるように、辺の長さは無限であるにもかかわらず面積は有限、という奇妙な図形だ。一体どんな形をした図形なのか?
コッホ曲線の作成法
方法さえ分かっていれば、小学生でも作図可能だ。適当な長さの線分を用意し、これを三等分した後に、線分の中点を引っ張り上げるような操作をする。すると線分の中央部が盛り上がって、三角形を仮想的に考えることができるので、これが正三角形となるように中点を引っ張り上げる。
これが1サイクルあたりの操作だ。あとはこれを延々と繰り返す。無限に図を掲載するわけにもいかないので、の場合のみ、拙い図を載せておこう。
になると、なんとなく「フラクタルっぽさ」が現れてくる。そして、コッホ曲線を3つ合わせて得られる図形を「コッホ雪片」という。わかりやすいように、色分けして表示してみた。適当に作図した割にはなかなか美麗だ。
辺の長さは無限である
図形的な美しさも堪能したところで、そろそろコッホ雪片の数学的性質に着目していこう。
辺の長さが無限であるというのは、直観的には当たり前な気もするが、ちゃんと数学的に議論する。さっきも書いたとおりだが、コッホ曲線を得るための操作は「線分を三等分した後に中点を引っ張り上げて正三角形を作る」というものだった。すなわち、1回の操作で長さは倍になる。
だから、における線分の長さを1とした時、回の操作を繰り返すと長さはになる。は無限大に大きくなるから、
すなわち、コッホ曲線の長さは無限大だ。
コッホ雪片の面積
では、面積はどのように考えるべきか? 雪片の中には、1辺の長さが1の正三角形が内包されている(図5)。をどれだけ大きくしても、それぞれのコッホ曲線の始点と終点は固定されたままなので、の値に関係なく1辺の長さは1のままだ。
となると、あとはそれぞれのコッホ曲線の内部に生じる面積を考えればよい。がからに変化するときが一番わかりやすいが、「一回の操作によって線分上に正三角形が生えてくる」ようなイメージで考えることができる。図4で示したように、のとき正三角形の一辺の長さはだから、その面積をとおけば、
ここでになると、さらに正三角形が生えてくる。この時、それぞれの正三角形の一辺の長さはで、その数は4個だから、新しく生じる面積は
だんだんと法則性が見えてきた。1回操作をするごとに、線分の数は4倍になり(図6)、各線分の長さは倍になる。
そして各線分上に生えてくる正三角形の一辺の長さは、と言えるだろう。線分1つから正三角形が一つ生えてくるから、のときに新しく生じる面積をとおけば、
コッホ雪片は3つのコッホ曲線を合わせたものだから、これを3倍した
を取って、これに図5で求めた正三角形(一辺の長さが1、面積は)を足せばいい。ここまでの議論をまとめると、回操作した後の雪片の面積は
なので、これの極限を取って、
四行目で、無限等比級数の公式を使用した。なんと、長さは無限であるにもかかわらず、面積は有限になった。なんとも不思議だが、「極限」という操作は直観では理解しにくいという典型例だ。
計算ミスが多い性分のせいで、仕上げるのにずいぶん時間を要してしまった。同じくフラクタルの代表格であるシェルピンスキーの三角形などもそのうち取り上げたい。