どくとる・めも

化学、数学、プログラミング、英語などに関する諸々

【有機化学】Michael付加反応【人名反応】

はじめに

Wolff-Kishner還元(【有機化学】Wolff-Kishner還元【人名反応】 - どくとる・めも)に続き、人名反応シリーズの2回目。

将来的にRobinson環化を扱いたいので、その前提知識となるMichael付加反応を扱う。

反応の概要

Michael付加反応は、α,β-不飽和カルボニル化合物に対してカルバ二オンまたは求核試薬を付加させる反応である(後述する「Michael付加反応のより一般的な定式化」も参照されたい)。




まず、α,β不飽和というのは、カルボニル基から数えてα位とβ位の炭素の間に不飽和結合を有する状態を指す。

また、この付加反応は1,4-付加に分類される。どこが1でどこが4なのか?という疑問が必定生じるが、この場合の1はβ炭素、4はカルボニル酸素を指す(参考: 【有機化学】マイケル付加の1,4付加とはどこ?【位置】|化学ネットワーク(化学解説・業界研究・就職)




例として、Michael付加反応を用いてマロン酸ジエチルと2-シクロヘキセン-1-オンを反応させると、次のような物質が得られる。




それでは、この反応の反応機構を見ていこう。

Michael付加反応の反応機構

カルボニル化合物と言えばα水素の引き抜きである。この反応においても、第一段階は塩基によるα水素の引き抜きから始まり、脱プロトン化されたマロン酸ジエチルが生成する。

生成するマロン酸ジエチルに対しては複数の極限構造を仮定できる。すなわち、マロン酸ジエチルの負電荷は非局在化しており、安定性が比較的高いと予想される。

この負電荷が、下図のように2-シクロヘキセン-1-オンを攻撃し、エノラート中間体が得られる。




しかし、ここで疑問が生まれる。なぜ負電荷は、カルボニル炭素を直接攻撃するのではなく、カルボニル炭素から離れた炭素を攻撃するのだろう?一般的に考えれば、カルボニル炭素こそが電子プアであり、求核攻撃を真っ先に受けそうな気がする。

この現象は、HOMO-LUMO相互作用によって説明される。私は理論化学には疎いのでこれ以上詳細には説明できないのだが、α,β-不飽和カルボニルのように共役した物質のLUMOはビニル基上に位置し、これが求核剤のHOMOと最も強く相互作用するために、1,4-付加が進行する。

そうして生成したエノラートは、再びマロン酸ジエチルのα水素を引き抜き、反応が完了する。




Michael付加反応のより一般的な定式化

さて、Michael付加はα,β不飽和カルボニルのみを対象とする反応であるかのように書いてきたが、実はもっと広い範囲に一般化できる。一般化したMichael付加の反応式は、以下のようになる。




R, R'は電子吸引性の官能基(アシル基、シアノ基)であり、これらを有する物質の側をMichael donorという。繰り返しになるが、本反応はまずα水素が引き抜かれないと進行しない。α水素の引き抜きの結果生成するアニオンが安定に存在するためには、電子吸引性の官能基が必要と言うわけである。

一方、R''は一般にはカルボニル基であることが多いものの、ニトロ基やフッ化スルホニルなどを用いた反応例もある。こちら側はMichael acceptorと呼ばれる。

先に挙げたマロン酸ジエチルの反応と同様、生成物は1,4-付加反応の結果であることが見て取れる。

終わりに

上述のようにMichael付加反応においては1,4-付加が進行するわけだが、Girgnard試薬などを用いると反応機構が変わり、1,2-付加が起こる場合もある。反応が速度論的支配なのか、熱力学的支配なのかという違いもある。そういった違いを考察するためにも、Grignard反応を近々取り扱う予定だが、まずはRobinson環化を片付けようと思う。