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【生物】PCR法とは?【COVID-19】

はじめに

最近更新さぼりがちですみません。転居した関係で自分の身の回りの世話だけで精一杯になっており、ブログを書く体力と気力が残っていないというのが正直なところ。

スローペースでやっていきますがよろしくお願いします。

さて、タイトルにあるPCR法。例のウイルスが蔓延してからというもの、この単語をニュース等で聞かない日は無いくらいだが、これは具体的に何を目的としてどういう操作を行う試験法なのだろうか?

ぶっちゃけ今更このテーマを扱うのは遅きに失した感がひどすぎるし、以下の動画の解説が大変にわかりやすくて私が口を挟む余地もないくらいなのだが、自分の勉強のためには文章としてアウトプットすることが大事だと思うので。


www.youtube.com

PCR法の目的と概略

端的に言えばPCRDNAを増幅させるための手法である。ただしこの表現は少し不正確で、より厳密には対象とするDNAのある特定の遺伝子領域のみを増幅させる手法を指す。これを開発したのはCetus社のKary Mullis氏であり、同氏はこの業績によってノーベル化学賞を受賞している。

そういえば昨年のノーベル化学賞は、CRISPR Cas9に関する研究に対しての授与だったと記憶している。研究そのものにケチをつけるなんておこがましいことをするつもりは毛頭無いのだけど、これって「化学賞」の範疇に含まれるんだろうか?

それはともかくとして、なぜDNAを増幅したいのかというと、理由は単純で検査対象とするDNAは多ければ多いほど都合がいいからだ(と私は解釈している)。大量のDNA試料が最初から入手できるのであればPCRを実施する必要はないが、諸々の理由でごく少量の試料しか入手できないというケースも当然想定される。そういう場合にはPCRの出番というわけだ。

ちなみに"PCR"というのは"Polymerase Chain Reaction"に対する略称であり、日本語では「ポリメラーゼ連鎖反応」と呼称する。これについては後述するが、ポリメラーゼによるDNAの合成反応が連鎖的に進行することから、このような名称が与えられている。

PCR法の流れ、操作手順

さて、PCR法は大まかには以下のような流れを経て進行する。

  1. 2本鎖DNAの熱変性(Denaturation)
  2. 相補的DNAの結合(Annealing)
  3. 結合した相補的DNAの伸長(Elongation)


01-03のプロセスを何回も繰り返すのがPCRなのだが、これだけではわかりにくいので、図も交えながらもう少し具体的な解説を試みる。PCRを行うにあたっては、以下の材料を用意する必要がある。


まずは、増幅対象のDNAを熱変性(Denaturation)させる。ご存知のようにDNAは二重らせん構造を有しているが、加熱するとこの構造がほどけて1本鎖のDNAになる。これが熱変性である。加熱温度は90℃以上と、なかなかに過激である。

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図1 熱変性

ちなみにDNAの二重らせん構造を提唱したワトソン氏なのだが、黒人に対する人種差別発言で批判を浴びて名誉職を剥奪されるという憂き目に遭っている。いや、一番憂き目に遭っているのは差別を受けた黒人であって、ワトソン氏に対する処罰は至極当然なのかもしれないが。

www.cnn.co.jp

話が逸れた。熱変性を起こしたら、次は変性後のDNAにDNAプライマーを結合させる。図中の赤い部分がDNAプライマーに相当する。この操作をアニーリング(Annealing)という。"anneal"には「焼き戻す、なます」という意味がある。

ここで大事なのは、DNAプライマーは対象とする遺伝子領域内のあちらこちらにぺたぺたと結合するのではなく、熱変性したDNAの両端にのみ結合するという点だ。

また、先ほどの熱変性の際には90℃以上の高熱が必要であったが、アニーリングの際の温度は40-65℃程度である。

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図2 アニーリング

アニーリングが完了したら、結合したDNAプライマーを伸長(Elongation)させる。プライマーの長さは短いので、図2の状態はなんとも不恰好に見えるが、プライマー末端にDNAポリメラーゼが結合すると相補的なDNA合成が行われる。これがElongationであり、DNA合成が完了すると...なんと増幅前は1対だったDNAが2対に増えている。

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図3 伸長(Elongation)

これがPCRの1サイクルであり、サイクルを n回繰り返せば理論的にはDNAを 2^n倍に増幅させることができる。

ただしなにもないところからDNAが泉のように湧いてくるわけではないから、DNA合成のための材料が必要となる。この材料の役割を果たすのがヌクレオチドである。

また話が脱線して申し訳ないが、「ヌクレオシド」と「ヌクレオチド」は極めてややこしい関係にあるので、混同しないように注意したい。ヌクレオチドはDNAやRNAの構成成分であり、糖・塩基・リン酸からなる単位をヌクレオチドと呼ぶ。これに対して、リン酸を含まない、すなわち糖・塩基のみからなる単位をヌクレオシドという。

この件については、こちら(【Q&A】ヌクレオチドとヌクレオシドの違いとは? | バイオハックch)で詳しく説明されている。一体なんの理由があってこんなややこしい二つの名前が使われているのだろうか...

また、使用するDNAポリメラーゼは耐熱性を有している必要がある。Elongationの際の温度は72℃程度であり、通常の生体内の温度よりもずっと高温となる。

おわりに

以上、極めて簡単ではあるが、PCR法の概略を説明した。まだまだ収束の兆しが見えないが、少なくともワクチン接種は一定のスピードで進んでいるようだ。あとはワクチンが効果を発揮することと、我々一般人にワクチンが提供されるまでは感染しないことを祈るばかりだ。

自治体や医療機関によっても異なるのだろうが、自費診療の場合、1回のPCRで30000円ほど要求されるらしい。30000円て。そんだけありゃ銀座で高級な寿司が食えるぜ、などと考えてしまうのは私が貧民根性に取り憑かれているせいだろうか...