【有機化学】オルト、メタ、パラ配向性
先日ラボ内の勉強会で議論の対象となったので、学部生のころを思い出しつつ執筆。
はじめに
まず、次のような化学反応を考えよう。phenolを出発物質として、nitrophenolを合成する。この反応では、求電子試薬であるnitronium ion ()が、に対してortho(o-)、meta(m-)、para(p-)いずれかの炭素を攻撃し、結果として3種の構造異性体(o/m/p-nitrophenol)が生成すると予想される。
重要なのは電子を「供与」するか「吸引」するか
結論から言うと、先の問題の答えは、 o-nitrophenol: 50% m-nitrophenol: 0% p-nitrophenol: 50% となる。m-nitrophenolに至っては全く生成しない。なぜ、こうした差が生まれるのか? それを考えるために、以下の反応式を眺めてみる。そしてcarbocationは、その周辺に電子供与性の官能基が多いほど安定となる。一般にアルキル基は電子供与基とみなされるので、1級<2級<3級の順で安定になる。
加えて、今回は代表的な電子供与性官能基であるhydroxy基が分子内に存在するから、これに隣接すればより安定となる。そういった目で上の反応式を眺めると、o/p-nitrophenolについては、3級カルボカチオンを有する極限構造を考えられる。
これに対し、m-nitrophenolは、どのような極限構造を仮定しても2級カルボカチオンしか考えられない。よってo/p-nitrophenolの中間体はm-nitrophenolのそれよりも安定で生成しやすいので、先ほどの様に生成割合に差が生じる。このような現象はortho-para配向性と呼ばれる。
「オルト、パラ」だけが配向性ではない
先ほどの例では出発物質がphenolであり電子供与性の官能基を有していたわけだが、もしphenyl基が電子吸引性の官能基で置換されていたても同じことが言えるだろうか? 今度は、benzaldehydeの塩素化を考えてみよう。先ほどと同じように、塩素原子が付加したcarbocation中間体に対して、極限構造を考える。実はまったく逆で、m-chlorobenzaldehydeが主生成物になる。すなわち、meta配向性を示す。なぜか?
ヒントは官能基がformyl基ということにある。formyl基の炭素は正に帯電した()の状態なので、これとcarbocationが隣接すると静電気的な反発が働いて不安定化する。
すなわち単に1級だとか2級だとかではなく、carbocationの周辺環境が電子richになっているかどうかが重要であり、それこそが中間体の安定性を決める。