【有機化学】ヒスタミンとそれにまつわる生体反応
気になるニュースがあったので、今回はそれを取り上げてみる。都内の保育園で集団食中毒が発生し、その原因物質はヒスタミンであったというニュースだ。
幸いにも発症者の症状はいずれも軽度だった。ヒスタミンは、「抗ヒスタミン薬」などの呼称に代表されるように化学に馴染みのない人であっても比較的耳にする頻度が高い化学物質だと思われるが、ヒスタミンとはそれほどまでに恐ろしい物質なのだろうか? 勉強してみる。
ヒスタミンの構造と合成
ヒスタミンは、以下の図1ような構造をしている。イミダゾールからエチレン基が伸びて、その末端にアミンを有している格好だ。アミノ酸の一種であるヒスチジンが、ヒスチジン脱炭酸酵素の作用を受けることで生体内で合成される(図2)。
ヒスタミンの生理活性
冒頭では、さもヒスタミンが悪者であるかのような記述をしたが、実際はどうなのだろう。
ヒスタミンが関与する生体反応として最も身近な例としては、蚊などの虫刺されが挙げられる。虫さされの仕組み|肌トラブル情報館|池田模範堂に詳細に記されているが、ここでは「かゆみ」が発生するまでの過程を簡単にまとめてみる。
2. 蚊の唾液を検知したマスト細胞が、ヒスタミンを放出する
3. 放出されたヒスタミンにより血管拡充・血漿成分漏出が起こり、皮膚表面が腫れる
4. ヒスタミンが神経上のヒスタミン受容体と結合することで、かゆみの刺激が脳へと伝達される
また、ヒスタミンはアレルギー反応にも深く関与している。花粉、ほこり、ペットの毛などのアレルゲンが体内に進入すると、これを検知した免疫系がヒスタミンを放出し、くしゃみや涙液の分泌などを促すことでアレルゲンを体外に排出しようと試みる。
すなわち、蕁麻疹や皮膚炎に代表されるアレルギー症状は、ヒスタミンによって引き起こされる。だから、アレルギー症状を抑えるためには、ヒスタミンの働きを抑える抗ヒスタミン薬が処方される。有名どころでは、アレグラやアレジオンがこれに該当する。(抗ヒスタミン薬(内服薬・注射剤・貼付剤)の解説|日経メディカル処方薬事典)
だが、副作用のない薬は存在しない。抗ヒスタミン薬を服用すると眠気の副作用が生じることがあるが、これはヒスタミンが有している覚醒維持作用が阻害されるためだ。
また、俄かには信じがたい話だが、ヒスタミンには忘れた記憶を復活させる効果があるという報告もあり、認知機能改善に有用と期待されている。量次第で毒にも薬にもなる、ということだ。
余談
有機化学と銘打っておきながら医学・薬学的な側面の方が強くなってしまったので、最後に化学的なことを書いて茶を濁しておこう。ヒスタミン分子内では互変異性が起こり得る。
イミダゾール環内の窒素原子のうち、側鎖により近い方を、遠い方をとしたときに、に水素が付加したものをpros互変異性体、に水素が付加したものをtele互変異性体と呼ぶ。後者の方が安定性が高い。
また、ヒスタミンは高い安定性を有しており、調理時の加熱では分解しない。先の述べたようにヒスタミンはヒスチジンから合成されるが、カジキ、カツオ、サバなどの赤身魚はヒスチジンを多く含むので、調理の際には十分に注意せねばならない(ヒスタミンによる食中毒について)。
まとめ
ヒスタミンはアレルギー症状や食中毒を引き起こす一方、覚醒状態や記憶の維持にも深く関与しており、良くも悪くもヒトにとって重要な物質と言える。
ちなみに私はウニを食べまくった翌日に高熱で倒れたことがある。貧乏人の消化器系には刺激が強すぎたのだろうか。