【生物学】緑膿菌と日和見感染症【感染症】
はじめに
業務の関係で微生物を対象とする機会が増えてきて、それに伴って微生物に対する興味が増大しつつある今日この頃。というわけで今日は、日和見病原菌の一種として有名な緑膿菌(Pseudomonal aeruginosa)を扱う。
緑膿菌とは?
上の画像は緑膿菌P.aeruginosaの電顕写真である。これぞ細菌、とでもいうべきフォルムをしている(画像はhttps://institute.yakult.co.jp/bacteria/4211/より引用。
P. aeruginosa は一般的なグラム陰性菌であり、植物や、ヒトを含む動物にとって疾病の原因となり得る。しかしながら、免疫機能が通常に機能している人がP. aeruginiosaの毒牙にしてやられることはほとんどない。こいつは高齢者、あるいはAIDS患者のように、免疫力が低下している人々に牙をむく。
日和見感染症と日和見病原菌
このように、健康な動物では問題となることのない病原体によって引き起こされる感染症は日和見感染症と呼ばれ、 日和見感染症を引き起こす病原体を日和見病原菌と呼ぶ。P. aeruginosaの他には、レジオネラなどが日和見病原菌としてよく知られているが、今回はP. aeruginosaのみを取り扱う。
緑膿菌感染により引き起こされる症状
免疫機能が正常であればほとんど問題にならないというのは先に述べたとおりだが、だからといってこいつを甘くみてはいけない。P. aeruginosaによって引きこされる症状はかなり深刻である。
以前、カブトガニの血の色を論じた際に、カブトガニの血液を用いてエンドトキシンを定量可能であるということを紹介した(【雑学】カブトガニの血は何色?【化学】 - どくとる・めも)。エンドトキシンというのはグラム陰性菌の細胞壁に存在するリポ多糖のことである。
P. aeruginosaもグラム陰性菌であり、こいつが血中に侵入してエンドトキシンを産生すると、菌血症や敗血症を引き起こし、最終的には多臓器不全にもつながる恐れもある。中々にシャレにならないということがおわかりいただけるだろう。
緑膿菌とムコイド
こいつ自身が産生する毒素も問題なのだが、緑膿菌はエンドトキシンの他にも、ムコイドとよばれる粘着物を生産することがある(ムコイド産生能を有する緑膿菌はムコイド性緑膿菌と呼ばれる)。ムコイド自身に毒性はないが、これが産生されると物質表面に強く付着するようになり、また産生されたムコイドがバリアのような役割を果たして、機械的な除去や白血球による貪食などの外的作用に対して抵抗性を示すようになる。注射器などの医療器具などにP. aeruginosaが付着すると、先に述べたように免疫機能が低下した患者の体内にこいつが進入することになるので、しばしば院内感染などの形で問題となる。
緑膿菌と薬剤耐性
もうやめてくれといいたいところだが、まだこいつには厄介な性質が残っている。薬剤耐性を有しているのである。
これまた以前のエントリの紹介になるが、ペニシリンと薬剤耐性の話を取り上げたことがあった(【化学】世界初の抗生物質、ペニシリン【医学】 - どくとる・めも)ペニシリンの様にβ-ラクタム構造を有する抗生物質をセフェム系と呼び、ペニシリンの他にはセファゾリンなどが有名だが、いずれも P. aeruginosaに対しては効果が無い。テトラサイクリン系やマクロライド系も役に立たない。医療現場においてP. aeruginosaが目の上のたん瘤として扱われているであろうことは容易に想像がつく。