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【高校数学】整式の除算(割り算)、剰余

はじめに

理系の博士課程学生がこれを知らんとはなにごとかと方々からお叱りを受けそうだが、私は多項式の割り算というものがどうにも苦手だ。

15÷5=3とかなら極めて単純で全く問題ないが、 (x^2-8x-1) \div (2x+3)などと言われると「?」となってしまうのだ。 xに何か適当な値を代入すれば慣れ親しんだ割り算に帰結するのだろうが、イメージがわきにくいのである。

というわけで今回は、「整式の除算」を基本から見直してみる。

定義の確認

新しい数学的概念を学ぶには、なにはともあれ定義の確認である。さきほどの15÷5=3という式の商は3であり、余りは0。17÷3なら商は5、余りは2となる。

それでは、多項式の除算においては商と余りはどう定義されるだろうか?

 xについての整式 A(x) \neq 0, B(x) \neq 0を考えるとき、以下の2条件を満たす整式 Q(x), R(x)がただ一つ存在する。これを除法の原理という。


 A(x) = B(x)Q(x)+ R(x)
 \deg R(x) < \deg B(x)


この式における Q(x)を、 A(x) B(x)で割ったときの商と呼び、 R(x)をその余り(剰余)と呼ぶ。  \degというのは次数をかっこつけて表現しただけの数学機構であり、例えば[f(x) = x^2 + 8]に対しては \deg f(x)=2になるという、それだけの話だ。

ちなみに「整式」は多項式と単項式の総称だが、受験数学においては十中八九多項式を考えることになるだろうから、整式=多項式と考えてもさほど大きな問題にはならないと思われる。単語の定義としては正しくないけど。

基本は小学校の割り算

我々が慣れ親しんだ整数(自然数?)どうしの割り算と比べてみよう。18÷7=2余り4という式を考える。この時は被除数(割られる数)が18、除数(割る数)が7である。

小学校の算数で教わる被除数および除数の定義は少しふわふわしているが、被除数が分子、除数が分母に相当する。

さて、先ほどの式を少し書き換えてみると18=7×2+4である。すなわち2が商、4が剰余となる。

しかしながら18=7×1+11とすると、式としては成り立っているが、商と剰余という観点からすると適切ではない。なぜかというと、剰余が最小となるように商を選ぶ必要があるからだ。

もう少し厳密な話をすると、被除数と除数を指定しただけでは、商と剰余を一意に定めることはできない。18という数は、無数のパターンで表現することができる。


18=7×2+4
18=7×1+11
18=7×0+18
 \vdots


なので、無数のパターンのうち、剰余が最小となるパターンだけを採用するという決まりにしておこう。これによって商と剰余をただひとつに決定できるようになる。

除法の原理の証明

今回の主題である整式の除算においても、考え方は同じである。除法の原理の証明を考えよう。

 \deg A(x)=m, \deg B(x)=nとする。 m < nなら Q(x) = 0, R(x) = A(x)とすればいいだろう。

問題は m \geq nの場合である。 A(x)および B(x)の最高次の係数をそれぞれ a_m, b_nとする。

ここで、以下の式を考えてみると、この式の次数は m-1となる。


 A(x)-\dfrac{a_m}{b_n}x^{m-n}B(x)


少しわかりにくいかもしれないので、 A(x), B(x)を次のように書き下してみる。


 A(x) = a_0 + a_1 x + a_2 x^2 + \cdots + a_m x^m \\
B(x) = b_0 + b_1 x + b_2 x^2 + \cdots + b_n x^n


そうすると \dfrac{a_m}{b_n}x^{m-n}B(x)の最高次の項は  a_m x^mとなり、 A(x), B(x)の最高次の項が等しくなるから、これらの差を取ると m-1次以下の項のみが残る。

さらに m-1 \geq nが成り立つ場合はどうなるだろうか。先ほどの式を A_1(x) = A(x)-\dfrac{a_m}{b_n}x^{m-n}B(x)として、これの中身を具体的に見てみる。


 \dfrac{a_m}{b_n}x^{m-n}B(x)=\dfrac{a_m}{b_n}x^{m-n}b_0 + \dfrac{a_m}{b_n}x^{m-n+1}b_1 + \cdots + \dfrac{a_m}{b_n}x^{m-1}b_{n-1} + a_mx^m \\
\begin{align}
A_1(x) &= A(x)-\left( \dfrac{a_m}{b_n}x^{m-n}b_0 + \dfrac{a_m}{b_n}x^{m-n+1}b_1 + \cdots + \dfrac{a_m}{b_n}x^{m-1}b_{n-1} + a_mx^m \right)\\
&= \left( a_0 + a_1 x + \cdots + a_{m-n-1}x^{m-n-1} \right) + \left\{ \left( a_{m-n} - \dfrac{a_m}{b_n} b_0 \right) x^{m-n} + \left( a_{m-n+1}- \dfrac{a_m}{b_n}b_1 \right) x^{m-n+1} + \cdots + \left( a_{m-1} - \dfrac{a_m}{b_n}b_{n-1} \right) x^{m-1} \right\}  
\end{align}


かなり仰々しいことになっているのでどこかでタイプミスしてるかもしれないが、とにかく m-1次式である。この式に対して


 B_1(x) = \dfrac{ a_{m-1}-\frac{a_m}{b_n}b_{n-1} }{b_n} x^{m-n-1} B(x)


を考えれば、 A_1(x) - B_1(x) m-2次式となる。参考サイト(http://www.math-konami.com/lec-data/ho06.pdf)ではこの辺りの記述はごまかされているのだが、まぁこんなに長ったらしい式を書かなきゃいけない手間は、推して知るべしといったところだろうか。

とにかく各項の係数はとんでもないことになっているが、同じ手順を繰り返していけば、いずれは m-k < nとなる。そうなると、もはや最高次の項同士でキャンセルして次数を下げるということができなくなるので(これをしようと思ったら \dfrac{1}{x}などで無理やり乗じないといけない)、先に述べた m < nの場合と同じである。この時の整式を R(x)とすれば、


 A(x) = B(x)Q(x)+ R(x)


これで、 xについての整式 A(x) \neq 0, B(x) \neq 0を考えるとき、


 A(x) = B(x)Q(x)+ R(x)
 \deg R(x) < \deg B(x)


を満たす Q(x), R(x)が存在することが示せた。次に、これらの一意性を考えよう。商と剰余が2組存在する、すなわち


 A(x) = B(x)Q_1(x)+ R_1(x) = B(x)Q_2(x)+ R_2(x)


が成り立つと仮定しよう。移項すると、


 B(x) ( Q_1(x) - Q_2(x) ) = R_2(x) - R_1(x)


ここで Q_1(x) - Q_2(x) \neq 0とするとどうなるだろうか? 左辺の次数は B以上であるのに対して、右辺のそれは B未満である。これはどう考えてもおかしい。矛盾である。

なので、 Q_1(x) - Q_2(x) = 0, すなわち Q_1(x) = Q_2(x)として、両辺ともに0とするほかには、この式を成立させる方法が無い。すなわち右辺も0なので、 R_1(x) = R_2(x)となる。

では、商と剰余が3組以上存在するとどうなるか?詳細に検討はしていないが、仮に商と剰余が3組存在するのであれば、


 B(x)Q_1(x)+ R_1(x) = B(x)Q_2(x)+ R_2(x) \\
B(x)Q_2(x)+ R_2(x) = B(x)Q_3(x)+ R_3(x) \\ 
B(x)Q_3(x)+ R_3(x) = B(x)Q_1(x)+ R_1(x) \\


となり、3つの式全てに対して同じ議論を適用できるから、三段論法的に Q_1(x) = Q_2(x) = Q_3(x), R_1(x) = R_2(x) = R_3(x)が成立すると予想される。4組以上の場合も同様だろう。

よって、商と剰余の一意性が示せた。

終わりに

ほんとうは剰余定理、因数定理まで証明して、その上で例題を扱う予定だったのだが、現時点でもなかなかにボリューミーなので、ここで一旦publish。別エントリを近いうちに書く予定。

ふぅ、疲れた。簡単にググってみたところ数Ⅱの範囲らしいのでそのようにタグをつけてみたが、いかんせん高校から離れて久しいので、間違っていたらご連絡くださると幸いです。